前院長 藤原正博のコラム

前院長 藤原正博が在任中に書いたコラムを掲載しております。

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マスクの話

 そろそろインフルエンザに罹患した患者さんが出てきているようで、昨年に比べると少し早いかなという印象です。RSウイルス感染症も流行っているようです。これから冬に向かい、いわゆるかぜに罹りやすい時期となります。
 当院では今月初旬から感染対策委員会の指示で職員は原則マスク着用ということになりました。以前から申し上げているように医療は「人と人」ですから、マスクで顔を隠して人と対応するのはとても失礼なことと私は考えているのですが、非常事態ということでお赦しいただきたいと思います。

 インフルエンザあるいはかぜの多くは飛沫感染または接触感染です。かぜをひいた人が咳やくしゃみをすると、約2メートル先まで飛沫(しぶき)が飛び散ります。その飛沫にウイルスが付着していて、それを吸い込むとウイルスに感染することになります。マスクをすることでそれを防げる(のではないか)と考えられています。しかし実際にはマスクによる感染防止効果は確かめられてはいません。マスクはむしろかぜをひいて咳をしている人が着用することで、周囲への拡散を防ぐという点で意味があるのではないかと思います。
「咳エチケット」、「くしゃみマナー」という言葉をご存知でしょうか。咳やくしゃみの際に、手あるいはハンカチなどを口に当てて飛沫が飛び散ることを防ぎましょうという行為です。しかし当然のことながら自分の手には飛沫が付着することになりますから、ティシューペーパーで拭くか水で洗い流さなければなりません。飛沫が手についたままで手すりに触ったりドアノブに触ったりすると、次にそこに触った人の手にウイルスが付着することになります(接触感染)。そしてその人が何かの拍子に手を口や鼻にやることで、ウイルスが気道に侵入、かぜをもらうということになるわけです。
 つまりかぜあるいはインフルエンザの予防のためには、マスクをすることよりも外出から帰ったときにきちんと手洗いをすることの方が大切なのです。
そうは言っても飛沫を直接吸い込むことを避けるという意味ではマスクは有用かもしれません。但しマスクをはずすときに外表面に触れたのでは何にもなりません。マスクに付着したウイルスが手につくことになります。マスクをはずすときは要注意です。もちろん1回1回使い捨てにすることは言うまでもありません。はずしたマスクをポケットに入れ、また取り出して使うなどはナンセンスです。最近は花柄など模様のついたマスクもあるようですが、もったいないけれど1回使ったら捨てましょう。

結核、麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)は空気感染なので、通常のマスクでは感染を防止できません。N95と呼ばれる特殊なマスクが必要となります。以前トリインフルエンザが問題となったときに一時話題となりましたが、日常生活で皆さんがこのマスクをつけることはまずないでしょう。

かぜあるいはインフルエンザを拡散させないための一番いい方法は、治るまで家にこもって外出しないことなのですが、現実にはなかなか難しいですよね。かぜくらいで仕事を休むなんて…、というのが世間一般の考え方です。これを改めない限り、どうにもなりません。主婦にとっては毎日の買い物は欠かせませんから、何日も寝ているというわけにはいきませんよね。
そこでどうしても楽になるためにいわゆるかぜ薬を飲むことになります。かぜを治す薬はありませんが、症状は和らげてくれます。しかし実はこのかぜ薬がかぜの治癒を遅らせる可能性があります。かぜをひくとまず熱が出ることが多いのですが、この熱はウイルスを早く排除しようとする身体の反応でもあるのです。発熱することで身体の免疫能力が何倍にも高まるというようなことも言われています。ですから解熱剤を使って熱を下げるとウイルスの排除が遅れ、だらだらと症状が長引く可能性があります。つらいけれども頭を氷枕などで冷やして自然に解熱するのを待つのが本当は一番いいのです。「そんなこと言ったって…」という皆さんの反応が目に見えるようですが…。

何はともあれ、もしあなたがかぜやインフルエンザに罹ってしまったら、他人にうつさないよう心遣いをしていただきたいと思います。特に病院にお見舞いに来られる場合はご注意願います。病院には身体の抵抗力が落ちている患者さんがおられることをご理解下さい。
(平成24年11月22日)