前院長 藤原正博のコラム

前院長 藤原正博が在任中に書いたコラムを掲載しております。

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クスリの話

日本人は一般に薬が好きなようです。手元に資料がないため具体的な数字をお示しすることはできませんが、日本の薬剤消費量は世界一と言われています。わかりやすいように一例を挙げると、抗インフルエンザウイルス薬のタミフル。インフルエンザウイルスの増殖を抑え、症状緩和に役立ちます(けっしてインフルエンザを治す薬ではありません。使わない場合に比べて1~2日早く解熱すると言われています。)。このタミフル、なんと世界中の約70%が日本で使われているのだそうです。2010年の推計人口は世界で69億869万人、そのうち日本の人口は1億2,637万人で、比率としては1.9%です。世界人口のわずか1.9%に過ぎない日本人が世界中のタミフルの70%を消費している…、ちょっと変だとは思いませんか?
病院に来た高齢の患者さんが、帰るときには手提げ袋いっぱいの薬を持っているというのも、よく聞く話ですよね。

もちろん薬は大切なもので、外科医がメスで病気の治療に取り組むのに対し、内科医は薬で病気の治療をします。薬には様々な種類があり、保険診療で認められているものだけでも1万5,000品目を超えます。これ以外にもいわゆる市販薬というものもあります。
あなたはどんな薬を飲んでいますか? 2009年の「薬物使用に関する全国住民調査」によれば、1年間に1回でも使用したことのある医薬品のトップはかぜ薬で、64.7%の人が使っています。次いで鎮痛薬(58.2%)、目薬(53.3%)、湿布薬(43.3%)、胃腸薬(43.0%)の順です。抗生物質が21.5%で第8位にランクされています。
なぜ日本ではこれだけ多くの薬が使われるのか、それに対しては様々な解釈がなされていますが、ここでは触れません。

薬は本来身体にとっては異物です。場合によっては毒となることもあります。ですから薬は必要最小限にすることが原則です。そうはいっても齢をとってくるといろいろなところが傷んできますから、どうしても薬の種類が増えてしまいます。高血圧の薬、糖尿病の薬、腰痛の薬、骨粗鬆症の薬、等々。1種類であれば別に問題のない薬であっても、他に何種類もの薬を一緒に飲むと相互作用で思わぬ問題が生じることがあります。また食品の影響を受けることもあります。血栓症の予防に用いられるワーファリンという薬をご存知ですか? この薬を飲んでいるときは納豆を食べてはいけないというのは有名な話ですよね。納豆にはビタミンKが多量に含まれているため、ビタミンKの拮抗薬であるワーファリンの効果を薄めてしまうからです。またグレープフルーツといくつかの薬の相互作用も知られています。

抗生物質は感染症の治療のために重要な薬ですが、むやみやたらに使うと耐性菌をつくることになります。かぜはほとんどがウイルス感染で、基本的には身体の免疫能力によって治癒します。かぜを治す薬はありません。いわゆるかぜ薬は症状を和らげるだけで、飲んだから早く治るというわけではありません。以前このかぜに対してしばしば抗生物質が処方されました。二次感染を防ぐためというのが主たる理由だったと思います。しかしこれを支持するだけの根拠はありません。最近になって小児科学会が「かぜに対して抗生物質を投与することは有害無益」という声明を出し、ようやく抗生物質投与にブレーキがかかったようですが、一部では今なお処方されているようです。中にはかぜをひいたから抗生物質をくれという患者さんがいることも事実です。必要のない薬を使うことのデメリットを、是非ご理解いただきたいと思います。

今回の表題に「クスリ」と書いたのはなぜだと思います? 逆に読んでみて下さい。クスリ→リスク、そう「危険性」ということです。薬は確かに大事なものなのですが、一歩間違えば危険なものとなるのです。

最近、国の方針もあって医薬分業が進んでいます。皆さんにとっては煩わしいだけかもしれませんが、実はとても大事なことなのです。今まで述べてきたように、薬は言ってみれば両刃の剣です。これをうまく使いこなすためには薬剤師の力が必要です。かかりつけ薬局をつくってあなたの薬剤・薬歴を管理してもらうことで、薬の安全性が高まるのです。実は医師は薬に関してはセミプロと言ってもいいかもしれません。もちろん自分の専門領域の薬については十分な知識を持ってはいますが、専門外のものについては必ずしも十分とは言えないのです。それに対し、薬剤師は薬のプロです。是非薬剤師と仲良くして下さい。いろいろな話をし、また話をよく聞いて下さい。どうか薬を上手に使って下さい。
(平成23年9月26日)