前院長 藤原正博のコラム

前院長 藤原正博が在任中に書いたコラムを掲載しております。

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酒は百薬の長、されど万病の元

 「酒は百薬の長」と言われ、実際に少量の酒(350mlの缶ビール1本、日本酒0.5合、ワイン130ml程度)を飲む人の方が全く酒を飲まない人よりも死亡率が低いというデータもあるようです。でも好きな方はこの程度ではすみませんよね? 毎日けっこうな量を飲んでいらっしゃるあなたへ、今回は「酒」の話をします。

 酒の歴史は古く、紀元前7,000年頃には何らかの醸造酒がつくられていたようです。紀元前5,400年頃にはワインが、紀元前3,000年代にはビールが飲まれていたことを裏付ける壺が、遺跡から出土しています。
 酒というと一般的には日本酒をイメージしますが、言葉としてはアルコール(エタノール)が含まれた飲料の総称であり、様々な種類があって、大きく分けると醸造酒、蒸留酒、混成酒の3種類になります。ブドウを原料とした醸造酒がワイン、蒸留酒がブランデー、オオムギを原料とした醸造酒がビール、蒸留酒がウイスキーと麦焼酎、そしてコメを原料とした醸造酒が日本酒、どぶろくであり、蒸留酒が米焼酎、泡盛です。他にもいろいろあります。醸造酒であればシードル、マッコリなど、蒸留酒であればウォッカ、ジン、カルヴァドスなどです。ご存知でしたか? 因みに私はここに挙げたものを全て飲みました。いろいろ飲んだ中で、私にとっては日本酒が一番かなと思います。まあ人それぞれですから、ワインにはまる人もいるでしょうし、「マッサン」で注目されるようになったウイスキーがいいという人もいるでしょうね。要は自分の好きなもの、自分に合ったものを、自分のアルコール処理能力内で飲めばいいのです。

 アルコール(エタノール)は主に胃と小腸で吸収され、肝臓でアセトアルデヒドに代謝されます。アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)という酵素により酢酸に変換されます。ALDHの働きが弱いとアセトアルデヒドの分解が遅れ、顔がほてったりドキドキしたり、吐き気を催したりして悪酔いすることになります。また二日酔いの原因となります。
 ALDHの働きには遺伝的な差異があり、一般的にアジア人は欧米人に比べると活性が低く、酒に弱いのは事実です。日本人の場合、ALDHの活性が低い、あるいはまったく欠落している人が、45%程度いると言われています。
 「飲めば段々強くなる」ということがよく言われますが、確かに酵素が誘導されてアルコールの代謝が若干早くなるものの、程度問題です。
 もっとも毎日飲んでいるあなたは、それなりに酵素が働いているのだろうと思いますが、「飲めない」という人に飲酒を強要することは厳に慎むべきです。

 酒を飲むと酔いますよね。これはエタノールが中枢神経系を抑制するからです。最初は陽気になったり興奮したりしますが、これは低濃度のエタノールが抑制系神経を抑制するからで、血中濃度が上昇すると運動器や意識を司る神経系も抑制されて、いわゆる酩酊状態となります。さらに血中濃度が上昇すると泥酔、昏睡状態となり、死亡することもあります。
 一時期いわゆる一気飲みというのが流行ったことがありますが、一度に大量のアルコールを摂取すると代謝が間に合わず、血中アルコール濃度が上昇し、急性アルコール中毒となり、死亡に繋がります。
 少量の飲酒は食欲を増進させたり、疲労回復にも効果があると言われていますが、飲み過ぎれば様々な問題を生じます。管をまいたり、説教を始めたり、怒ったり…。場合によっては暴力をふるったりする人もいます。酔いが覚めれば本人は覚えていない…、周りはいい迷惑です。あなたはどうですか?

 飲酒運転で事故を起こす人も後を絶ちません。自分は大丈夫なつもりでも、アルコールは中枢神経系を抑制しますので、判断力が低下し、思ったように手足を動かせなくなります。そのような状態で車を運転すれば、車は凶器となります。以前に比べると事故を起こした場合の罰則は厳しくなりましたが、罰則を厳しくすればいいというものではありません。他者を巻き込んで死亡事故を起こしてからでは取り返しがつかないのです。「飲んだら乗るな」です。

 酒を飲むと肝臓がやられるとはよく言われることですが、アルコールによる臓器障害は何も肝臓だけではありません。膵臓や脳にも影響を与えます。また食道がんや口腔・咽頭・喉頭がんの原因となることも知られています。毎日晩酌をしているあなた、肝機能のチェックをしていますか? 健診でγ-GTPが高いと言われたら、肝臓が注意信号を発していると考えて、酒の量を減らしましょう。せめて週1回は「休肝日」を設けましょう。ASTやALTの異常も伴うようであれば、これはもう危険信号です。酒をやめることを考えましょう。

 4月は異動の時期で、新人歓迎会などで普段はそれほど飲まない人も飲酒の機会が多いと思います。自分にとっての適量を知り、楽しく酒を飲みましょう。アルコールは緊張感をほぐしてくれます。仕事の場面ではなかなか話すことが難しい人でも、酒が入ることでコミュニケーションをとれることもあります。最近の若い方々は大勢での宴会を嫌う傾向がありますが、「飲みニケーション」も悪くはないのでは、と私は思います。宴席でお互いに普段とは違った顔を見せ合う…、ああ、この人にこんな面があったんだ…、新たな気づきを得て、翌日からのコミュニケーションがうまくいくようになることもあるのではないかと思います。
もちろんセクハラやパワハラはご法度ですよ。
 (平成27年4月9日)